高梁川の槻大橋のほど近く、八幡神社の参道沿いにある小さなカフェ。ここは、岡山市内で「カフェ ワンプラスワン」を営んでいた田口賢さんが2021年12月に移転、オープンさせた古民家カフェ。
納屋を改装した店内には、厨房のほかに4人がけのカウンターとテーブル席が5つ。立派な梁を生かした天井、淡い色合いのペンキを塗り分けた板壁、廃材を利用したインテリアなどがやさしく心地よい空間を演出しています。
パートナーの友里佳さんとともに店に立ち、やさしい笑顔でお客さんを迎える田口さんに、総社市での創業と移住についてお話をうかがいました。
たくさんのご縁に導かれて総社市への移住を決意
田口さんが総社市に移住を考えたのは2021年春頃。
「若い頃に働いていた飲食店から独立し、岡山市内に『カフェ ワンプラスワン』を開いて10年。一区切りということで何か新しいことに挑戦したいと思っていた矢先に新型コロナが感染拡大。次第に経営が厳しくなり、自分自身何のために独立したのかその目的を見失いかけていたんです。」
自分が理想とした「人と人とのつながりを紡ぐ場所」を作りたかったのに、人より日々のお金を意識せざるを得ない。今の状況をどうすればいいのか考えていました。
そんな時、偶然にも総社市在住の親しい友人に「総社に来たら?」と声をかけられ、市の魅力発信室の担当職員を紹介してもらったのが運命の出会いでした。熱心な職員は、ある立派な古民家とその大家さんを紹介し、田口さんは建物に一目ぼれします。さらに大家さんの人柄や「思い入れのある人に住んでほしい」という思いにふれ、ここを購入したいと思ったそうです。
八幡神社の参道沿いという場所も魅力で、この場所は自分がやりたいことにマッチしているという大きな可能性を感じた田口さん。岡山市内のカフェはファンも多く、泣く泣くの閉店でしたが、ファンたちの後押しもあり、めでたく古民家を購入することになりました。
母屋を住居、納屋をカフェに改装したいわば店舗付き住宅
建物は築100年を超える古民家で、堂々とした母屋の向かいには広い中庭を挟んで納屋という造りです。母屋はもともと大家さんの高齢のお母様が住んでいたところ。すでにリビングをオール電化にリフォームしてあるなど暮らすには好都合な仕様で、現在、田口さんと友里佳さんの住まいとなっています。
カフェは納屋だった建物を改装しました。水道、電気、床のレベル調整などプロの手が必要なところは業者に依頼し、壁や内装などは友人たちの手も借り、できる限り自分たちの手でリノベーション。ペイントした板を斜めに貼る、友人宅からもらった廃材やガラス戸などを活用する、テーブルの天板は自分で取り付けるなど、試行錯誤を繰り返しつつ4カ月かけて今の形に仕上げました。資金は日本政策金融公庫や吉備信用金庫からの借り入れ、総社市のそうじゃ商人(あきんど)応援事業補助金、クラウドファンディングで集めた支援金を活用。名前を記した壁飾りから支援者の多さがうかがえます。
自分たちから地域に溶け込んでいく姿勢を大切に
こうして2022年4月にカフェはオープン。現在はランチをメインに週4日営業しています。噂を聞きつけた人やファンなど、遠方からやってくる多くの人で賑わう「古民家カフェ ワンプラスワン」。近所の人たちも、オープンしている時は毎日のようにコーヒーを飲みに来てくれるそうです。
最初は縁もゆかりもない場所に新参者の自分たちが入っていくことに不安だったそう。だからこそ、自分たちから地域にどんどん入っていくことを心がけたといいます。
まずは地域の団体や市の力を借り、どんな人が住んでいるのか知ると同時に、自分たちの思いを伝えるために話し合う場を設けて意見交換しました。すると地域の人はカフェができ、人が出会う場所ができることを大歓迎。そのうち以前の店を見に来てくれたり、工事中も様子を見にきては1時間ほどおしゃべりしたり。自分たちはこの地に迎え入れてもらえている実感を得ることができたといいます。カフェがオープンしてからも、わからないことは積極的に聞いて教えてもらう、そんな人懐っこい人柄も地域の人に受け入れられた理由なのかもしれません。
カフェを人と人がつながる場所にしたい!
今後は、地元はもちろん市外からも多くの人が集まり盛り上がるようなイベントを行っていきたいとのこと。「街に住む人には田舎がないでしょ。ここが僕たちの田舎と思ってもらえる、そんな空気作りができれば理想ですね。テーマは『みんなの田舎』」と田口さん。
実は、人とのつながりを意識するようになったのは、あることがきっかけでした。まだ若い頃、自信家で人に相談するのが苦手だった田口さんは、その性格ゆえに一人で頑張りすぎ、無理をため込んで自律神経失調症に。そんな時、「なんで話してくれないんだ」と一緒に泣いてくれた友人の気持ちに胸を打たれたといいます。自分は決して一人で生きていたのではないことに気づいた田口さんは、「これからは人と人とのつながりを大切に、人のために生きよう」と決意。「ワンプラスワン」という店名、そして場所にはそんな思いが込められているのです。
人が集まる場所であり、地域からも期待を集める店として、人に感謝しつつ毎日を送る今。友人から「ずいぶん表情が柔らかくなったね」といわれることからも、田舎暮らしの楽しさや充実ぶりがうかがえます。
今後はカフェ2階のギャラリー営業や近所の子どもたちとの野菜づくり、母屋での合宿など、さまざまな企画を考えているそうで、今はそのために種まきや準備の真っ最中。これからの「ワンプラスワン」の活躍が楽しみです。
<記事掲載日:2023年3月22日>
古民家カフェ ワンプラスワン
〒719-1311 岡山県総社市美袋475 TEL:070-9014-0602<OPEN 11:00/CLOSE 17:00(L.O16:30)> 定休日/火曜・水曜・木曜