生まれも育ちも兵庫県加古川市という福中信也さん、優子さん夫妻。 加古川市内で創業150年の老舗和菓子屋の5代目店主として店を守ってきた夫妻が、縁あって総社市の住人になったのは2021年5月のこと。 それまで寝る間も惜しんで毎日仕事に精出していた暮らしが、今では散歩や庭いじり、読書、オルゴール鑑賞、旅行といった趣味を満喫する暮らしに一変。
「総社での今の暮らしは100点満点です」と顔をほころばせるお二人に、そのきっかけや家を建てるまでのこと、総社での暮らしぶりなどについておうかがいしました。
暮らしの拠点をどこにする!?
きっかけは2019年に公共工事での立ち退き話が持ち上がったことでした。
「市から提示された立ち退き費用は、もう1軒和菓子屋を構えるにはほど遠い金額。 たとえ店を再開したとしても高齢な私たちは何歳まで仕事ができるか分かりません。 ちょうど新型コロナウイルス感染症が拡大していた時期でもあり、先行きの収入がなくなるのは不安でしたが、まあ、いいかと思って」と信也さん。
今後の暮らしの拠点をどこにするかは大きな問題です。 寒いところが好きという信也さんの希望で、北海道や友人のいる岐阜県高山市が候補に上がったものの、冬季の雪下ろしは難しいということで却下。 とはいえ暑いところも苦手。そんなとき、岡山大学に通う息子さんが「総社市出身の友だちはみんな穏やかだし、総社がいいと思う」と話す言葉にピンときました。 岡山県はかつてクラボウバレーボール部に所属していた優子さんが2年半ほど住んでいたり、和菓子作りで岡山県のぶどう農家から仕入れていたりなど何かと縁のあった場所。 そこでにわかに岡山県が候補に浮上します。
市役所職員の対応のよさが背中を押す
さっそく総社市を訪れ、あちこち巡ってリサーチをするお二人。 小高い山にぐるりと囲まれた地形、訪れた店で受けた親切の数々、住宅展示場の営業マンから聞いた「国分寺五重塔を眺めながら暮らすのはいいですよ」という言葉など、行く先々で見聞きする総社市の好印象に心が動き始めます。 ある時、吉備路の古民家カフェの2階から眺めた風景に「やっぱりここ、いいね」と納得した夫妻は翌日、総社市役所を訪れました。
そして訪ねた魅力発信室の担当職員の対応が、夫妻の気持ちを後押しします。
「市役所の方に何から何まで親切にしていただきました。 公用車でくまなく市内を案内してくれた後、まちかど郷土館へ行き、館長さんや周辺の古民家カフェの人に声かけしてお話をする機会を作ってくださって。 みなさん『早く引っ越しておいで』と口々に言ってくださるんです。」
これをきっかけに総社市で暮らすことを決意した夫妻。 転入の手続きをする際も「担当職員の方が窓口を案内して回ってくれたり、住居の相談にのってもらったり。 トントン拍子で物事が進んでいったんです。」
どこよりも快適な夫妻の住まい
家を建てるにあたって、夫妻が希望したのは優子さんのコレクションであるオルゴールと読書好きな信也さんの蔵書を収納する棚を作ること、不要な壁や扉を取ること、天井を付けず、屋根裏部屋を作ること、万が一のためにバス・トイレには車椅子が入る広さを確保することでした。
完成した住まいは、1階にゆったりしたリビングダイニングとキッチン、そして引き戸でつながる和室スペースが広がります。 壁には天井まで届くほどの飾り棚があり、優子さんの誕生日ごとに信也さんが贈ったリュージュ社製のオルゴールがずらり。 キッチン奥の西側の壁には全面に書棚を作り付け、信也さんの愛読書がぎっしり並んでいます。
扉も壁も最小限にしたことで計らずも家全体はワンルーム状態となり、屋根裏部屋でCDをかけると部屋中に音楽が響き渡り「まるでレストランにいるよう」な空間に。 さらに、エアコンも1階、屋根裏部屋に各1台の合計2台だけなのに、どこにいても一定の温度で年中快適に過ごせるそうです。
総社市に暮らす幸せを日々かみしめて
理想の住まいを実現し、今お二人はとても充実した日々を送っているとのこと。 毎日丁寧にコーヒーを入れ、読書や庭仕事を楽しみ、散歩や映画鑑賞、食べ歩きなどに出かけてはのんびりと過ごす。 忙しかった和菓子店経営の頃からは考えられないほど、時間はゆっくりと過ぎていきます。
「総社の人は気持ちに余裕があるのか、本当に親切。 スーパーではレジが混んでいるとすぐに別のレジを開けてくれたり、お得なサービスのことを教えてくれたり。 ベッドを買いに訪れた店の営業担当者がたまたま総社市在住だったのをきっかけに、その後も友人のようなお付き合いをしてもらっています。 また、大人も子どももみんな挨拶するのに感心ですね。食べ物は野菜も魚も果物もみんなおいしいし。」と優子さん。 10年おきに体調を崩していたという信也さんも、総社に暮らすようになってすっかり健康を取り戻し、「表情もずいぶん変わったね。」と言われるそうです。
関西人特有の人懐っこさで近隣の人たちともいい関係を築きつつあるお二人。「全然知らない街に来て、こんなに優しくしてもらえるとは思っていませんでした。『総社っていいところですね』というと『ありがとうございます』という言葉が返ってくるんです。 自分の街を好きだという人が多いのにも感動しました。」また、歴史豊かな吉備路に触発され、「古代について知りたくなった」信也さんは、吉備路に詳しい近所の友人と歴史談議を楽しんでいるとのこと。
「総社に来て本当に幸せ。立ち退きは宝くじに当たるようなものだと言われたことがありますが、今思えばここでの暮らしこそが私たちにとっての宝くじだったんだと思います。」と話してくれた優子さんの笑顔が印象的でした。
総社に引っ越してきたことで、時間に追われない穏やかな暮らしを手に入れた福中さん夫妻。 今は四国一周岬めぐりドライブ、春のお花見など、気ままな旅のプランに胸を膨らませているそうです。
<記事掲載日:2023年3月28日>