「放射能による健康被害のない安全な場所で暮らしたい」と、2011年の東日本大震災をきっかけに東京都から引っ越してきた岡野さん一家。 当時、岡山県和気町に被災者受け入れのシェアハウスができたとの情報を得て、いち早く移住を決めたご夫妻は、その後、岡山県内を転々とした後、総社市に移住しました。 東京から岡山への移住のいきさつ、岡山に来てから、そして総社市での暮らしなどについて伺いました。
やっと見つけた現在の場所
「原発事故直後、東京では毎週いろんな場所でオフ会が開かれていました。 避難するならどこがいいかといった情報交換をしていたのですが、岡山は早い時期から行政や民間による情報発信が多く、受け入れ体制は手厚い印象でした。」
当時、0歳と2歳の子どもを抱えていた岡野さん夫妻。 ともに仕事を持つ身ながら、話し合いのうえひとまず先に妻の牧子さんと子どもたちが和気町のシェアハウスに引っ越し、半年後に雄一郎さんも合流。 本格的な岡山暮らしが始まりました。 最初は和気町のアパートに暮らし、その後もいくつかの場所を経て、2019年4月に現在の住まいに落ち着きました。
古い家をリフォームした新しい我が家
JR服部駅の近くに建つ岡野家の住まいは、築50年以上の古民家。 田の字形の間取りの母屋に増築を重ねた3棟が連なる大きなお宅です。 プロの手を借り、壁や天井を抜いて大まかなリフォームをし、その後は自分たちで手を加えながら暮らしています。
「セルフビルドの話もありましたが、古い家をリフォームして暮らしたいという思いがあって。 母屋は暗いイメージだったので壁や押入れ、天井を抜いて風通しのよいワンルームのリビングにし、別棟のキッチンとの床に段差があったので高さを揃えてもらいました。 玄関も以前の倍に広げるなどいろいろ手入れをしました。」とお二人。
できあがったリビングは開放感たっぷり。 古民家特有の使い込んだ柱や天井などが縁側越しに差し込むやさしい日差しに浮かび上がり、雄一郎さんの手による廃材を使った書棚や暖炉が温かみのある落ち着いた空間を演出しています。 冬の寒さはそれなりに厳しいけれど、暖炉の熱がしっかり部屋を温めてくれるそうです。
移住者と地元のご縁をつなぐ活動を通じて
岡野さん夫妻とこの家との出会いは、総社市の魅力発信室の紹介がきっかけでした。
牧子さんは、備前市に暮らしていた2015年頃から、岡山県内に移住した友人とともに、移住者の支援活動を始めていました。 移住者の自分たちだからこそ分かる移住者のニーズに応えるため、地元の人と移住者とのパイプ役になりさまざまな活動を行っていたのです。 それが「おかやま昭和暮らしプロジェクト」です。 総社市昭和地区の団体と牧子さんたち先輩移住者、行政との協力のもと、新しいご縁を作る手助けをします。 そして、暮らしにまつわるイベントなどを通じて縁を育むほか、空き家物件の案内なども行っているそうです。
ただいま岡山暮らしを満喫中
こうした活動を通じて現在の住まいも見つけた岡野さん一家。
「総社は穏やかで暮らしやすい場所です。買い物に行きやすいし、空港や駅も近い、岡山や倉敷へのアクセスも便利。 ピクニックができるような大きな公園、児童館、映画館がないのは残念ですが、自然との距離感はいい感じ。 そんな総社のいいところを満喫できればいいですね。」とお二人。
食べ物のおいしさにも驚いたと言います。
「特に魚と果物がおいしいですね。 関東に比べると旬の魚が安く手に入ります。 果物も知り合いの農家さんから桃やぶどうをいただくこともあり、なんて贅沢なんだろうかと。 岡山は本当に豊かなところです。」
仕事については、フリーでグラフィックデザインの仕事に携わる雄一郎さん、同じくフリーの編集者である牧子さんとも、仕事は対面ばかりでなくリモートも可能なので、状況は東京と大差ないとのこと。
家族の共通の楽しみは、国分寺や鬼ノ城、福山周辺の散策や近県の旅行、そして稲作。稲作に至っては岡山に来て以来8年のキャリアだそうで、現在は田んぼを耕さない不耕起栽培にチャレンジし、毎年一年分の米を栽培しているから立派です。 他にも冬の暖炉のために、昭和地区の友人たちとともに玉切りした材を薪にしたり、母屋の漆喰壁や2階の子ども部屋の壁を自分たちで塗ったり。 また、牧子さんは友人たちとともに手作りおやつを放課後児童クラブの子どもたちに届けるおやつSUN活動も行っているそう。 都会のマンション暮らしとは180度異なる生活を営む岡野さん一家はとても充実している様子です。
移住を考える人に伝えたいこと
ただ、今の生活に至るまでは苦労もありました。 田舎では人間関係が近く、移住者を見る周囲の目は厳しかったり、田舎特有の保守的な態度を悩ましく思ったりすることもあったそうです。 そんなときは移住者仲間でお互いの気持ちを話し合うなどしてリフレッシュし、気持ちを切り替えることで乗り越えてきたといいます。
そんな経験も踏まえ、牧子さんは「とにかくいろんなところに泊まってみることをお勧めします。 田舎に住みたいからといっていきなり飛び込むより、最初は街寄りの田舎にお試し滞在してみるとか、段階を踏みつつ少しずつ距離を縮めていく方がお互いにギャップに苦しまなくてよいのでは。 田舎には町内会や溝掃除もあって思ったより忙しかったり、他人との距離が近かったりします。 また、私たちは移住者の仲間がいたから心強かった。 何かあるときに子どもを預けたり、困ったことを相談したりできる移住者同士のつながりの場があることで、とても助けられました。」とアドバイス。
これから移住を考える際の心構えとして、大切なヒントになりそうですね。
<記事掲載日:2023年7月28日>